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VRC学園12期 10日目 必修授業 Lag:N/A先生

VRの中で身体を使った表現に挑むこと

001teacher Lag:N/A先生

VRChatはアバターを使って仮想空間内のコミュニケーションを楽しむサービスな訳ですが、その 没入度 には意外と広い幅があります。そもそもVRC自体がデスクトップ起動を可能としており、VR機器が無くても参加は可能です。その場合は、よくあるFPS/TPSのゲームのようにアバターキャラクターをキーボードなどで操作して、3D空間内を歩き回ることとなります。

もちろんその場合は、VRコントローラーやヘッドセットの動きを使ってアバターの頭や腕に変化をつけることはできません。デスクトップ起動だと他者から分かるくらいにはカタい動きのアバターとなるのですが、音声での交流に変化はありませんし、デスクトップ参加の人は思いのほか多かったりします。

そして逆を見れば、 よりVRに没入した方向 へ機器を揃える人達もいます。一般的にはVRヘッドセットと、それに付随しているコントローラー2本を用いて 頭・右手・左手 を体の動きで入力します。アバターが同じように動くことで、VR空間内のコミュニケーションがよりリアルになるという仕組みです。

VRヘッドセットを通して見る空間は、実物大の空間として体験できるので、通常の平面ディスプレイとはかなり印象が異なります。どれだけ派手な大作アクションゲームであったとしても、普通に平面ディスプレイで遊ぶのならばそれは画面の中の表現に過ぎません。

ちょっとした遊びで作られたようなワールドであったとしても、VR空間内での体験は軽くそれを超えてきます。人間サイズのNPCをひとり眼の前にすれば、その人が隣りにいる感覚で表現されるので、実際「かなり大きい」という感覚を得るはずです。平面ディスプレイに伝説のドラゴンがどれだけ出てきても、そんな感覚は得られないのです。

その実在に近しい 空間感覚 と、身振り手振りによる動きのトレースによって、VR-SNSでの交流は他ではなかなか真似できない経験が詰まっています。

そして、身振り手振りの入力に魅力があるのならば……  そこを突き詰めようと考える人達も当然存在する わけです。

002class スライド視聴がうまくいかない生徒の対応で体育館へ移動

今日の授業は Lag:N/A先生 による VRパフォーマンス概論 でした。

ここでのパフォーマンスとは演劇・演舞といった身体を動かす表現のことを指します。Lag:N/A先生はVRChatをはじめ、VR空間内での身体表現を行い数々の舞台に立たれているそうです。先生が行うのは独自の「剣舞」というもので、BGMに合わせて実際に全身を動かして表現します。

VRChatでは、先の「ヘッドセット+コントローラ2本=3点」の位置トラッキングだけではなく、機器の増設によって腰や足といった位置のトラッキングもサポートしています。

「フルトラ勢(フルトラッキング利用者」と呼ばれたりします。フルトラでの一般的な構成は、トラッカーと呼ばれる小さな機器を新たに3つ追加し、 腰(お腹)・右足・左足 を含めた6点の位置トラッキングを可能とするものです。

この6点があれば、よほど細かい表現を求めない限りは日常で見かける動作が可能になります。腰のトラッキングがない場合、お辞儀をしようと頭を下げても「ヘッドセットが身体の基準位置」となってしまうため、アバターがお辞儀の形にならず、顔だけ下を向いたまま直立でちょっと前に進むという動きとなる訳です。

腰と足のトラッキングの3点が増えるとお辞儀もできますし、壁などに体重を預けているかのような体勢も取れるようになります。やろうと思えば横になって寝ることも可能なので、VR機器をつけたまま睡眠をするような習慣の人もいたりします。

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Lag:N/A先生はその全身トラッキングを装着したまま実物の身体を動かしてVR内の剣舞を実現しています。この日は先生の活動をはじめとして、VR世界の中でパフォーマンスを行うことについて語っていただきました。

授業の最初は剣舞の動画が流される予定でしたが、クラスメイトにワールド内のスライドなどをうまく読み込めない不具合を解決できていない人がいたので、無理を承知で実際に演技を見せていただけることとなりました。

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VRChatには、設置してあるものを掴んだり、アバターに仕込まれた機能を呼び出すといった表現の土台となるシステムが存在します。通常のコミュニケーションを取るだけならばあまり使うことはありませんが、このシステムを駆使すると、同じアバターを使いながら別の服へ一瞬で着替えたり、ワールドに関わらず自分専用の武器を取り出せるようになるといったことが可能となります。

先生の剣舞では、こうしたシステムをも活用して突然カタナを空中に出現させたり、踊りの流れでそれを掴んだり、鞘と刀身をそれぞれ生み出して両手持ちしたりといったことを自然な形で演技に取り入れていました。

ただ人間の身体をトレースしてアバターを動かすだけならばVR内に写し込んだだけとも言えますが、虚空に突然モノを出現させるといった表現はまさにVRならではのものと言えるでしょう。

画像にある通り、演技の中で服装も変化していました。パッと変化するだけではなく、様々な特殊効果を付けて変化させるといったことも可能ですので、まさに変身といった表現になります。

アバターに様々な操作が行えるということは「見た目が存在しない状態」を作り出すこともできます。つまり、特別な実装を必要とせずその場から一時的に消えてしまう(本人としてはそこにいる)という表現も可能です。

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演技の後は場所を移動して講義となりました。

普段の活動ではVRC内で披露するだけではなく、別のVR-SNSなども含めて海外からの要請に応じてイベントへ出演することもあるそうです。年間で3桁もの回数に達するとのことでしたので、ほぼ日常的に取り組まれているのではないでしょうか。

先生からは、そのようにしてパフォーマンスを本格的に行う上での日頃の心構えを教えていただきました。VR環境はそもそもが複雑なものなので、同じVRChat内だとしてもワールドが違うだけで条件が異なったりします。

更に外部からの要請に従ってイベントへ参加するともなれば様々なレギュレーションや制限も存在します。別のVR-SNSであれば当然機能自体が変わってしまいますし、海外イベントならば言葉の問題だけではなく、正確な情報共有すら満足に行われない中で演技しなければならないといった場面も珍しくないようです。

そうしたことからわかるように、 万全の状態で行えないことが当然 の中でいかにして 求められるパフォーマンスを発揮するか が大事だと言えるでしょう。

ここからが授業の肝 だと私が感じた部分です。Lag:N/A先生からは「本番中に発生する問題へ瞬間的に対応するため」に必要な要素を教えていただきました。

現実の舞台とは異なる問題を抱えやすいVRでのパフォーマンス。それでも求められるパフォーマンスをどうやって提供するのか。なぜそれが可能なのか。

先生によれば、まず 「演技に必要な最低限の動作は訓練によって考えずとも行えるようにしておく」 ことが土台となるようです。様々な練習によって自然に行えるようになれば、その分の思考する必要がなくなり、本番での頭のリソースが確保できるようになります。自転車に乗れる人はそこまで考えずとも乗りこなせる…… といったことに近いかもしれませんね。

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更に 「自分としては失敗だと思っても相手に失敗だと思わせなければいい」 とも仰っていました。自分としての課題はそれはそれとして、本番中はちょっとした動きの違いが直接失敗かどうかは観客には分からないものです。

VRで身体の動きを表現するためには、トラッカーと呼ばれる機器を身体に直接取り付ける必要がありますが、これらが激しい動きではずれてしまったり、通信がうまくいかなかったりといったことは起こり得ます。

例えば右手のトラッカーがはずれてしまえば、VR上では右手がぶら下がったままとなってしまう訳ですが、あえてそのような体勢であるかのように演技を変化させてしまうこともあるようです。また、服装を変化させたりその場から消えるような表現のための機能を起動させて、そのような演出に見せかける間になんとか復旧を試みるといったことも過去にはあったのだとか。

確かに、完璧を求めすぎるが故に少しの失敗で演技そのものが停止してしまうよりは、機転によって変化のある演技を達成しきる方が「実力がある」という感じもします。

このようなことを実現するためにも、先の「練習によって本番中の頭のリソースを確保する」という日頃の努力が欠かせないことがわかります。

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講義の終わりにLag:N/A先生へ質問をしました。

本番中の思考力を確保するために日頃の訓練が大事とのことだが、その訓練メニューはどのようにして考案しているのか? という質問です。

野球やサッカーのようなメジャースポーツであれば、素人でもなんとなく練習メニューが思いつくような気がします。ですが、Lag:N/A先生の剣舞は言わば独自のパフォーマンスですので、その訓練方法も自分で考えなければいけないはずです。

日頃の本番を勝ち得ていくための訓練法はどう生み出されるのかを伺うことで、私が何かを学習する上でルーチンを組み立てる何らかのヒントになるのではないか?と思い、このような質問をしました。

Lag:N/A先生には現在、多くのお弟子さんがいらっしゃるようです。全てではないにしろ、演技への訓練内容はお弟子さん達へ指導をする中で見出していったとのことでした。

確かに、人へ説明してみようとすることでその瞬間に自分が想像以上に理解不足だったと実感する場面があります。学習理解度の効率の研究でも、座学やノートに比べて人へ教える行為の方が圧倒的に高い学習効率を生むという話もあります。

私自身の生活としては普通のサラリーマンしか経験がないので、組織に腰掛けで日頃からだらしない時間を過ごしてしまっています。自分の表現のために、自分を律して日々磨かれているLag:N/A先生のような、パフォーマンスで身を立てている方の生き方は本当に凄いなと感じるばかりです。

This post is licensed under CC BY 4.0 by the author.

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