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パススルーすごい

Meta Quest 3 を買った

2023年10月10日 Meta Quest 3 が発売された。

これまで Valve Index を使い続けていて、大きな不安はなかったものの、さすがに「世代」が古いと感じていた。
Index それ自体はVRヘッドセットの中でもハイエンドに入るものなので、それでも全方面に強さを発揮していたが、Quest3 は Index では得られない体験の範囲を色々と持っていたので、ついに買い替えることとした。

Index は何が強かった?

Index の強さはハイエンドだということにある。

Valve が出しているし、PCから直接駆動するので純粋にPCパワーをVRに向けられる。 コントローラーの「指まで追従する」のは他にないし、全体を握り込んで、その強さで入力するのも他では見られなかった。その分挑戦的だし、高くもあった。だけど現実離れした価格でもなく、要するに製品として高いレベルに収まっていたのだ。

だから有り体に言えば、これまで Index は上位っぽい存在 になっていた。

Quest 3 に限らず、VR HMDの進化は単なる性能向上ではなく、Index にそもそも存在していない機能が備わっていった。それが今回、Quest 3 の強みとして現れたのだと思う。

Quest 3 は何が強い?

まず基本性能が強い

これは仕方ないことだが、 Index は世代が古い ことで画面の解像度が相対的に低い。
レンズの研究も古くなってしまうので 「キレイに見える位置」を探すのが厳しかった
解像度ではなく「レンズと目の位置関係」でどこか常にぼやけた感じに見えてしまう。

解像度が低いことはスクリーンドア効果(常に網戸越しにみているかのような画面になる)を強く引き起こしてしまうし、 今となっては Index の明確な弱点 と言える。

そんな弱点があるとは言っても、PCスペックさえ高ければ、PCで処理されたゲーム描画がそのまま普通のディスプレイと同じ考え方で Index へ出力されるので、かなり高いフレームレートを維持していたし、ゲーム側の設定を上げさえすれば Index に関係なくどんどん画質は向上できる。

Quest 3 発売時点においても 視野角は Index が頭一つ広く 、フレームレートも大きい設定が可能となっているなど、販売当時の状況を考えれば化け物スペックだったと言っていいだろう。

Quest 3 の視野角、フレームレート範囲の最大値は Index よりも低いことから、これは誰もが認めざるを得ないはずだ。

Index の強みを確認した上で、では Quest 3 が強いのは何なのかといえば、まずパンケーキレンズが挙げられる。Quest Pro の時点で採用されているこのレンズは、なんといっても今どきのメガネのように「 装着位置をほとんど気にする必要がない 」のが特に強い。

ヘッドセットの装着位置を微妙に調整しないとボケてしまうといったことが 起こらない 。目だけを動かして画面の端っこを見てみても歪みがわからない。 装着がラフでもストレスがない のだ。
これは「 画面の実質的な有効範囲が広い 」ことを意味する。つまり、Index が強みとしていた視野角についてはボケによって半分価値を失っていたのに対し、Quest 3 は全体を活かせることでその能力差を埋めた…… いや、超えたと言ってもいいだろう。

解像度が高いことでスクリーンドア効果も感じられないし、PCスペックが許すのならば Index でいくら高精細な画質を表現できたとしても解像度の壁が存在するので、どこかで Quest 3 が画質をも超えてくるはずである。(はず… の理由は後述する)

パススルー関係の機能もかなり魅力的だ。Index にもあるが、ほとんど存在しないと考えても良いほどには、完全にひとつの機能としてウリにできる。MR機器とMetaが設定しているのも頷ける。

更に言えば、Index がハイエンドな価格帯であったのに対して、Quest 3 は幅広い層を狙った価格帯に抑えているのも無視できない。日本円では感じがたいが、500ドル以下なのは破格だと思う。

VirtualDesktop の存在

「Quest 3 が Index の画質をこえるはず」と濁した表現にせざるを得ないのには理由がある。それは Quest 3 の本来の運用方法にある。 Quest 3 はそれ単体でVRやMRの体験を可能とする機器 なのだ。つまりPCは関係ない。

Quest 3 を頭に装着して電源をいれれば、特にどこかへケーブルを繋げずともVR/MRの機能を体験できるわけだが、もちろんこの状態では自分のPCにインストールしたゲームなどは遊べない。この状態では、Quest 3 が全ての処理を行っているので、ゲームなどは Quest 3 からMetaストア的なところへアクセスして、Quest 3 のストレージへインストールし、Quest 3 の上で起動することとなる。

さすがに最新機器とは言っても、小型ノートPCよりも小さい筐体で表現できる描画能力には限界がある。Quest 2 からの進化としてはかなりのものだと感じるが、 単体起動だとPCゲームに慣れてしまったプレイヤーにとっては少し物足りない かも知れない。

そこで、PCとVR HMDの連携を考えるわけだが、Quest シリーズには以前からいくつかの方法が存在した。

まず Meta Quest 公式的な方法として Quest Link ケーブルを接続した有線連携である。
これはシンプルにケーブルでのやりとりとなるので、Index のような使い方が可能となる。
どこまでの処理をどちらが担当しているのかまでは正確に把握していないが、無線という状況を捨てる代わりに画質を得るという意味では有効な選択肢であるようだ。この点についてはまだLinkケーブルを入手していないので、比較は後にしたいと思う。

無線環境を得たい場合は、ここから更に2つの方法へ枝分かれする。

同様に公式としての Air Link を利用する方法。そして Virtual Desktop というサードパーティのアプリを利用する方法だ。どちらも宅内の5GHz帯Wi-Fi機能を備えた無線LANルーターを利用し、ローカル側のイーサネット通信として「PCから画面そのものを動画のようにして Quest 3 へ送信する」という方法を取っている。

普通なら公式である Air Link を使えば良いと考えてしまうところだが、どうしたことかサードパーティからリリースされている Virtual Desktop が機能面でも性能面でも Air Link を上回る(と言われている)理由で人気が高いようだ。

どちらを使っても良いのだが、 気をつけるべきは「動画のようにして Quest 3 へ送信する」という点 である。PCと普通のディスプレイのような関係であれば、Index と同様にただの表示機能として Quest 3 を利用すれば良いのだが、無線で高精細な画質を確保するべく、動画ストリーミング配信のような方式を取っている。

つまり、 PCは「ゲームそのものの実行処理」と「配信するための動画変換処理」を同時にこなさねばならない 。VRChatなどのゲームを起動しつつ、Quest 3 へ画面を送信するために動画変換処理も行い、それをイーサネットへ送信するというわけだ。イーサネットを通じてWi-Fiで Quest 3 に「動画」が到着し、ようやくプレイヤーがゲーム画面として認識できるかたちで表示される。

Index や Quest Link と異なるのは、この「PC処理が通常より多い」という点で、つまりスペックを要求される。重いゲームと、リアルタイム動画処理はどちらもGPUに頼ることとなるので、これまで Index を使って全力で描画していたゲーム画面を、Quest 3 + Virtual Desktop で実現しようというのは当然無理が生じてしまうこととなる。

「動画」的に処理された映像ということもあり、Quest 3 で向上したはずの画面はどこか荒い印象を受ける。このあたりの「動画変換具合」も設定で調整できるが、PCに無理はさせられないので、どこかしらで妥協点を探ることとなるだろう。

そして、フレームレートも犠牲にせざるを得ないので、PC連携をしているはずだが Index 利用時よりも想像以上にFPS値が低い …… という体験からは逃れられそうにない。

パススルーとVirtual Desktop が可能としたもの

Quest 3 のパススルー

これは発売当初からあらゆるところで言及されている。パススルー機能は「HMDを頭に装着したまま周辺のリアル状況を画面に映し出せる」ものである。それだけを聞けば何の意味が?と思うのも仕方ないだろう。リアル周辺の状況を知りたければHMDを外せばいいからだ。

パススルー機能自体は以前から存在していた。HMDを外さずにちょっと外側を確認するというのは、ちょっとした瞬間に事故防止として使えるし、あればあったで便利なものだったりする。ただしこれまではオマケ程度の機能だったのに対し、Quest 3 はかなり高精細なものとして搭載してきた。

前機種の Quest Pro でも既にかなりの能力を発揮していたが、ハイエンド機種だったはずの Pro よりもさらに高い機能を Quest 3 へ突っ込んできたことからもMetaの本気具合が伝わってくる。

結果として、パススルー機能をオンにしていると普通にちょっとした料理や洗い物くらいならば実行できてしまうくらいには画質がいい。少し古いスマホのカメラ画面を覗いているくらいの粗さは感じられるが、実用度では申し分ない。

このパススルー機能を実現するためのカメラ群があることで、Quest 3 としての基本機能を底上げしてくれている。

プレイエリアの設定がメチャ楽かつ自由度が高い

まずゲーム中に移動できる範囲を設定する機能が、どのVR HMDにも存在する。ゲーム中は周辺のリアル環境が確認できなくなるので、事前にこの「プレイエリア」を設定しておき、壁などに近づきすぎる前に擬似的な壁っぽいものを表示して、実際にぶつからないようにするといったものだ。

これまでのVR HMDでは自分で空間を入力するなりといった手間が必要で、ある程度のリアル目測をしながらなんとなく設定する他なかった。

Quest 3 ではパススルー機能を実現するための一つのセンサーとして深度カメラなどというものが搭載されている。これにより「プレイエリア設定」をおまかせする状態(デフォルト)にしておくと、ただ装着して部屋を見渡すだけで、どこが床で何が障害物かを瞬時に判断し、一瞬でプレイエリアを設定してくれるのだ。

この体験はあまりに未来的なので色んな人に体験してほしいと思える。

この「おまかせ設定」だとかなり安全側に寄っているのか、ある程度の広い空間でないと厳しかったり、複雑な部屋の構造には対応しなかったりする。そんな時は、従来どおりの手動による設定も可能だ。

そしてこの手動設定の際にも、深度カメラといった強さが発揮されている。

まず 床と天井の高さは驚く精度で認識される 。何の設定も必要ない。

その場から離れた壁際までエリアをコントローラーで入力しようとしても、しっかり床の高さが認識されているので、近づかずにそのまま直感的に3次元入力が可能となる。気づきにくいがこれはすごいことだ。

PCを置いている部屋と、隣のキッチンを全てプレイエリアにしようと複雑な入力をしてみたが特に問題はなかった。引っ越しの間取り図みたいな図形となったがプレイエリアにしたい位置は障害物があったとしても設定可能で、変に制限されることもない。

ゲーム中にぶつかるかもしれないリスクを自分で許容できるならば、ちょっとした机やイス、はたまたベッドが置かれている範囲なども普通にプレイエリアへ含められる。

そしてこれを一度設定すると、不思議なくらいエリアがズレずに維持され続ける。電源を切ってもそのままだ。
Index などのように LightHouse 環境でもないのにどうやって実現しているのだろう?
(※LightHouse環境は、部屋の角などに設置した位置センサーでHMDやコントローラーの位置を認識させるVR方式で、こちらの方が位置関係の精度は高く、フルトラッキングで利用されることが多い
 QuestシリーズはLightHouseではなく、本体に備わったカメラが周辺やコントローラと相互に認識しながら相対的な位置を割り出す方式を取っている こちらは安価で手軽というメリットがあるが、常に相対的な位置関係でしかないので精度を出しづらいという問題がある)

ゲームとパススルーの行き来がラク

本体を2度コンコンと叩けばゲームとパススルーが一瞬で切り替わる。

上から世界がふわっと入れ替わるような表現効果が挟まるのでなんとも自然だし未来的でもある。パッと切り替わるだけでは味気ないし、かといって時間がかかり過ぎるわけでもない、割とセンスがいいなと思う。

周辺を確認するならHMDを外せば良い、と記事冒頭で書いたが、実際には多くのプレイヤーが「鼻のあたりから見えるスキマ」を使ってちょっとした周辺確認をやることがあるあるとなっているはずだ。

どうせならコンコンして広く見てしまえばいい。外すよりは圧倒的に素早いし、鼻のスキマよりは安全だ。

VirtualDesktopのパススルー機能

シナジーとしてはかなり強いのがVirtualDesktop側に備わったパススルー機能である。

VRChatなどのゲームでは、Quest 3 のコンコン入れ替えだと全画面がパススルーへ移行してしまうので、アバターはそこにいるが自分からは「VRChat側の」周辺状況を確認できなくなってしまう。

鼻の隙間というわけではないが、VRChatの世界にいながらにして「ある一部分だけは現実世界を覗ける」というくらいがちょうどいいと思うこともあるだろう。そして、Quest 3 と VirtualDesktop ならそれが可能だ。

実際には VirtualDesktop 側のアップデートで、Pico4 などの一部機種でも同等のことは行えるようだ。だからこれは Quest 3 に限ったことではない。

VirtualDesktop 側で行うパススルーは、色マスク機能によって実現する。いわゆるグリーンバックの方法で、指定した色の部分についてはゲーム画面ではなくパススルー側を表示するというもの。

VRChat内のカメラ機能にはデフォルトで「アバター以外をグリーンバックにする」という設定がある。これとともに、VirtualDesktopのパススルー機能の色設定をグリーンにしておけば、VRChat内でカメラを呼び出すだけで、カメラの中に現実世界がうつっているかのような働きとなる。

VRChat内のカメラは実際のカメラのように掴んだりして持ち運ぶような動作をするので、ちょっと現実を除きたい方向にVR世界の中からカメラを構えるという、なんともサイバーパンクな体験をすることとなる。実用的かつ没入感を損なわないので、とても相性がいい。

もっと広い現実範囲を確認したいなら、それこそ本体をコンコンとすればよく、選択肢が広がっていていい感じだ。これを使って、手元でリアルの食事を目で確認しながら、周辺ではVRChatの友人たちが存在するといったことが可能になる。

趣味の範囲を超えつつある

HMDを被って作業が実用範囲になりそう

VRChatにはコワーキングスペースっぽいワールドがあったりするが、HMDを被ってログインした状態でPC作業をやるのは趣味色が強かった。人間側がけっこう色々と我慢をしたり工夫をこらして維持するような形となるので、ぶっちゃけ作業効率は苦しかったように思う。

SteamにはXSoverrayといったソフトがあり、VR画面上に実際のPCデスクトップを表示できるという機能がある。ウィンドウを複数に増やしたり、アプリ画面を割り当てたりして、実物のディスプレイ以上の枚数を擬似的に作り出せるという強みがある。
もちろんそれぞれの画面は上下左右だけではなく奥行きやサイズも含めて自由自在に配置できる。

現実の作業環境を超えているのは、この仮想ウィンドウがメインじゃないかと思うものの、HMDの画面の狭苦しさや本体そのものの重さ、周辺リアル環境が閉じられるといった点で不便が多かった。

そこに Quest 3 が来たことでいくつかの課題はクリアされそうな気がする。

VRとリアルをまぜこぜにしたようなパススルーを手軽に実現できるようになり、原則として無線で手軽に起動でき、本体も小型化してきているので、 画質劣化を気にしなければ VRChat内でのコワーキングスペース作業はかなり良いものとなりそうだ。

というか、VRChatにこだわらないならそもそも Quest 3 のOS画面の画質はかなりきれいなので、Quest 3 デフォルトのブラウザを使うか、PC作業が必要なら Virtual Desktop だけの起動で作業をしてもいいと思う。VRChat まで挟まないのであれば、Wi-Fiで送信されてくる画面もほとんど劣化を感じない(ゲーム起動してないから余力がある)。

たとえばDiscordか何かでチャットや音声をやり取りしているなら、プレイエリアさえ確保してあればPCから離れていても、そこら変に画面を浮かせて室内作業しつつDiscordでコミュニケーションが取れてしまう。
ハンドトラッキングでもちょっとした操作が可能なので、簡単なメッセージくらいならコントローラを持ってきていなくても返せてしまうから驚きだ。

友人たちがVRChat内でカードゲームに興じているのを眺めながら、ホットケーキを焼いて食べるなんてことが出来てしまったので(友人たちからしたら謎の動きをしているようにしか見えないが)、こりゃ可能性が広がったなあと感じるばかりだ。

AnkerのLink対応ケーブルを購入したので、次は有線での画質を比べてみたい。

This post is licensed under CC BY 4.0 by the author.

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